環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 ドイツの『周縁』を歩いてきて

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社会環境学専攻社会学講座
講師 青木 聡子
(環境社会学)

れまで、社会運動という手段で環境問題と向き合う人々を対象に研究を進めてきました。ドイツの環境運動、原子力施設反対運動が主たるフィールドです。
子力関連施設は、一般的に、地理的、政治的、経済的そして文化的「周縁」とみなされている地域に計画されます。実際に私がフィールドにしている立地点も、経済的に停滞し失業率の高い国境沿いの過疎地域ばかりです。こうした地域にとって原子力施設建設は、経済停滞を打開する地域振興策という側面をもちます。雇用創出などの経済効果を期待し危険施設を甘受する地域は少なくありません。しかし、その一方で、危険施設を受け入れまいと反対運動を展開し文字通り命がけの抵抗をおこなう人々が多いのも事実です。彼らの抵抗は、脱原発への政策転換を達成したドイツの場合のように全国的な「うねり」に発展する場合もあれば、局地的な運動にとどまり、やがて沈静化する場合もあります。その違いはどこから生じるのでしょうか。環境運動は、いかなる条件の下で社会を変える力となりうるのでしょうか。こうした疑問が私の研究の出発点です。
イツにおけるフィールドワークは、聞き取り調査がメインですが、実際にデモや座り込みの現場で参与観察をおこなうこともあります。そこで直面するのは、現場でしか得ることのできない運動のリアリティです。放水車や装甲車を従えて運動の鎮圧にかかる警察隊を目の当たりにしたときには、「ドイツという国から『敵手』とみなされる」ことの恐ろしさを痛感し、国家と対峙する地域住民の悲壮な決意を身をもって感じました。雪の中を野外の十字架の下に集まり「どうか私たち(の運動)をお守りください」と震えながら祈る年配の方々の姿には、思わず涙が出そうになり、彼らにとっての「神に祈る」ことの意味の重さを実感すると同時に、彼らの屈強さに驚かされました。私にとってフィールドは、情報や資料を得るだけの場ではなく、きれいごとでは済まされない現場の現実を突きつけられ、現地の人々の力強さに励まされ、研究への意欲がかき立てられる貴重な場です。
任して1年以上経ち本研究科での教員生活にもやっと慣れてきました。これまでは主に海外の事例に目を向けてきましたが、身近な地域を見回せば、東海地方にもさまざまな環境問題が存在し、同時にそれと向き合う人々が存在することに気付かされます。今後は、身近なイシューにも積極的に取り組み、現場のリアリティを掘り起こしていきたいと思っています。

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フィールドワークの様子

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参与観察の現場

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