環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 小さな珪藻の進化が大きなクジラの進化を促した?

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地球環境科学専攻地質・生物学講座
助教 須藤 斎
(古生物学)

の現在の研究対象は海洋一次生産者の珪藻という生物の化石です。化石として残るのはガラスでできた殻だけであり、その大きさは大きいものでも0.1mmにもなりません。しかし、その光合成量は全陸上植物の一次生産量に匹敵し、地球環境変動に対しても非常に重要な役割をもってきたと考えられています。
藻には「休眠胞子」というものを作るキートケロス属というグループがいて、特にこれに注目しています。世界中の沿岸域では冬に冷たい表層水が海底に沈みこみ、それを補うため海底から栄養に富んだ海水が昇ってくるという「湧昇」という現象があります。珪藻はこの湧昇のあとに豊富な栄養を使って大量発生するのですが、決まった季節に栄養が供給されないと海水中の栄養を全て使い果たしてしまい珪藻は増えることができません。しかし、休眠胞子を作る珪藻は、次にいつ栄養が供給されるかわからない環境を休眠し生き延びることできるのです。
のキートケロス属休眠胞子の化石は堆積物中から大量に産出することは知られていましたが、研究がまるでされてきませんでした。しかし、私がその分類を行い、約4000万年前から現在までの産出記録を研究してきた結果、約3370万年前に急激にその数や種類を増やしていったということが明らかになりました。この時代は温室地球から氷室地球へと急激に寒冷化したため、湧昇が不定期に起きる環境が増え、キートケロス属の「休眠する」という生態戦略が他の珪藻や一次生産者よりもはるかに有利になったと考えています。
らに、この時代はそれまで陸上にいたクジラの祖先がヒゲクジラへと急速に適応放散していった時代でもあります。ヒゲクジラはカイアシなどの一次生産者を捕食する動物プランクトンを餌としています。この時代のキートケロス属の急激な増加が動物プランクトンを増やし、その結果、ヒゲクジラが進化していったのではないかというシナリオが考えられ、今後このような珪藻の進化がヒゲクジラの進化を促したという「共進化」を証明していければと考えています。
(すとう いつき)

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さまざまな珪藻休眠胞子化石。

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過去の環境の変化に伴う、クジラ類と海洋三大一次生産者の進化の様子。

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