環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 フィールドで抱く環境保全へのとまどい

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博物館 地球史学講座
助教 西田 佐知子
(植物分類学)

究フィールドが熱帯林のため、調査の度に環境保護について考えます。そこは理想と現実のカオスです。その一例がマダガスカルのユーカリです。
は、植物の小器官の機能について研究しています。今注目しているのは、ダニ室と呼ばれる葉にできる小さな部屋です。中にダニがいることが多く、ダニとの共生器官と考えられていますが、詳しいことは不明です。そこで、多様なダニ室を持っている植物グループの系統・形態・生態の比較を行おうと、5年ほど前からマダガスカルを訪れています。
調
査地は、首都から車で2日行った後、丸一日歩いた所だったりします。こう書くと、よほどの密林を分け入るように思われるのですが、多くの行程は日本の森より単調です。なにしろ、ユーカリしか生えていませんから。
ーカリは、成長が早く荒地にも育つので、多くの国に導入されています。マダガスカルでも、延々とユーカリが広がっています。アレロパシーのせいか、周りに他の木は殆ど生えていません。
はこれを、現地の自然を知らない間違った植林だと思ってきました。しかし、現地の植物学者が働く鉱山でも、跡地にユーカリを植えています。現地の自然をよく知る彼が、なぜユーカリを?彼によると、鉱山は住民が森へ入る間口を広げる。そこに自然植生を回復させても、住民は奥地の伐採に走るだけだ。それくらいならユーカリを植え、それを使ってもらい奥の森を守る方がいいというのです。
れが本当にいいのか、私は迷います。目前の自然を回復させたい。しかし長期的には、森の奥が守られた方がいい。でも、もっと長期で考えると、この方法は人と自然林の乖離を広げ、自然林が使えぬ森として疎んじられるのではないか。この迷いに、外国から来る多くの環境保護団体と、援助に頼る人々と、援助も届かない人々が絡み合い、またユーカリ自身の功罪が入り組みます。
全を実践する人は尊い。でも環境問題は、そろそろ一度決算を行う時期のような気がします。環境学の傍らに座らせてもらっている私も、そこに少しでも役に立てたらと願っています。
(にしだ さちこ)

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ユーカリが続く丘-マダガスカル中央部では馴染みの風景です。

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