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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

2050年に向けた大気化学の大きな役割

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地球環境科学専攻 大気水圏科学系
谷本 浩志 客員教授
本教員のプロフィール

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世界各地の空
上段左から:つくば、インド上空でヒマラヤを望む、メキシコシティ
下段左から:シュトゥットガルト近郊、オスロ、モントリオール
誰しも一日一度は空を見上げると思います。また、日々の天気も気になりますよね。では、その「空気の中身」について考えたことはあるでしょうか?地球の大気中には実に様々な成分がごく僅かながら存在しており、太陽の光を受けて化学反応をしながら世界中に運ばれて、やがては地面に落ちるという一生を送ります。空気の「中身」に誰よりもこだわり、「化学」の視点で研究しているのが大気化学者です。
振り返ると、「大気化学」の研究とそれに付随する活動に25年ほど関わってきましたが、面白さは尽きません。私が「大気化学」に出会ったのは、大学3年生の時。1995年にオゾン層破壊に関する研究でノーベル化学賞が3人の大気化学者に授与された時です。この出会いは私の人生を変え、私は科学者になりました。
大気化学に限らず、地球環境を対象に研究することには多くの魅力があります。大気、海洋、陸水、土壌、人の健康、生態系、社会経済活動など対象は自然の営みから人間社会まで広く、どれも面白いものです。また、オゾン層、酸性雨、温暖化などの「問題」解決に向けて科学者として貢献できる点もやりがいです。
さて、気候変動問題の抜本的解決策である「2050年脱炭素化」。これに科学者はどのように貢献できるでしょうか。2050年に向けて徐々に減らしてゆくわけですが、毎年の排出量はどのくらい正確に算出できるのでしょうか?その方法には、燃料使用量等の統計データから計算するインベントリ法と大気観測データから排出量を推計する逆推計法があります。インベントリを信じるべきか、逆推計を信じるべきか?政府統計に把握できない社会経済活動は必ずある一方、大気観測は、様々な排出が混ざった末の大気濃度から過去に遡る難しさがあります。これは、ダイエットをするにあたり、摂取・消費カロリーの計算をする方法と、体重計で記録する方法に例えられるかもしれません。両方を組み合わせることが大事ですよね。
人間にとって適度なストレスは脳や健康に良いといわれますが、地球にはストレスフリーでいてもらいたいものです。その根本は「排出ゼロ」。物質を扱う大気化学の視点から考えています。
(たにもと ひろし)

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