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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

雪氷学から大気化学へ

顔写真

地球環境科学専攻 2012年博士後期課程修了
フランス国立科学研究センター博士研究員
岡本 祥子
 (大気化学)

写真
オゾン濃度の観測が行われている
八方尾根観測所外観
私が進学先として環境学研究科を選んだのは、地球環境に関することを自分で実際に現地に行って研究したいと思ったからでした。入学後は、アイスコアを用いた古気候復元に関する研究を行い、低温室や研究室での解析以外に、中央アジア、ヒマラヤ、アラスカの氷河観測に参加する機会を多くいただきました。そして、フィールドワークにすっかり魅了されてしまったことで、修士取得後は就職するつもりだったところが、研究者の道を志すことになったのです。
しかしながら、私は現在、雪氷学ではなく大気化学の分野で研究を行っています。皆さんはオゾンの研究と聞くと、具体的にどのようなことを思い浮かべるでしょうか。オゾンホールやオゾン層の研究をしているの?と聞かれることが多いのですが、私が現在対象としているのは対流圏、すなわち私たちが住んでいるような高度に存在するオゾンです。成層圏オゾンは、生物にとって有害な紫外線から私たちを守ってくれる「良いオゾン」ですが、対流圏のオゾンは、二酸化炭素、メタンに次ぐ温室効果ガスであると同時に、人体や植物に害を及ぼす大気汚染物質でもある「悪いオゾン」です。例えば、中国の風下に位置する日本の対流圏オゾン濃度にとっては、中国での人間活動によるオゾン生成の元となる物質の排出量の変動が重要となります。それだけでなく、中国から排出された物質の輸送はエルニーニョなどによって変化します。そのため、大気質の予測や改善を行うためには、大気化学だけでなく、気候・気象学といった自然科学分野に加え、経済学や政治学といった分野と連携した研究を行う必要があるのです。
雪氷学と大気化学、環境学研究科在籍時と現在では全く異なる分野の研究を行っているように思われるかもしれません。しかしながら、アイスコアはどこか掘削地とは別の場所から輸送されてきたものが氷河上に降り積もったものなので、そこに至るまでの輸送中にどのようなことが起きていたのかを知りたいと思っていた私にとっては、ごく自然の流れでした。幅広い学問分野を横断するような研究を行うことができることが、私にとって環境学の魅力のひとつです。
(おかもと さちこ)

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