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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

震災の記憶

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社会環境学専攻 社会学講座
黒田 由彦 教授
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2年前、四川省綿陽市北川チャン族自治県を訪れた。北川チャン族自治県は2008年5月12日の四川大地震で大きな被害を受けた自治体である。県政府(=役場)が置かれていた永昌という町は、地震によって町全体が廃墟となり、住民は中央政府の命令によって町の外に避難させられた。その後、20km離れた未利用の土地に新たな町が一から建設され、すべての住民が移住した。
町を建設したのは、中央政府の対口支援政策の下、政府から永昌の復興を託された山東省である。山東省は総力をあげ、チャン族の伝統建築の様式を考慮し、都市計画に沿って整然とした町をつくった。住民が移住して今年で7年目であるが、この9月に再訪したとき、町としての落ち着きが出てきているのを感じた。
では、元の場所はどうなったか。実は、町全体が震災遺跡として整備され、一種のテーマパークとして公開されているのだ。驚くべきことに、日本では立ち入り禁止区域になること必至な、今にも崩れてきそうな建物群の間も、写真を撮りながら歩いて見ることができる。地震のすさまじさをリアルに追体験することができるのである。
それとは別に5・12汶川特大地震祈念館も北川県にある。それらをどれだけの人が見て、どのくらい心に残るかは様々だろう。しかし、震災体験を風化させまいとする社会の確固たる意思を感じることはできた。
翻って日本はどうか。東日本大震災から5年半以上が経った。復興の背後で、震災が少しずつ風化していくことは否めない。町ごと残すという中国的スケールは望まない。日本では到底無理な相談だ。しかし、千年に一度と言われる未曾有の災害のわりには、被災現場を何らかの形で保存し、震災の記憶を長く社会に残そうという社会の意思が弱いのでは、と感じるのは私だけだろうか。住民感情や維持コストなど、一筋縄ではいかない問題が多々あることは承知しているのだが・・・。
(くろだ よしひこ)

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