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このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

熊本地震に思う

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減災連携研究センター(社会環境学専攻協力教員)
鈴木 康弘 教授
 (地理学)
本教員のプロフィール

4月14日と16日に立て続けに大地震に見舞われた熊本を3日後に訪れると、阿蘇カルデラの急斜面が激しく崩れ、赤土が痛々しく露出していた。阿蘇大橋は落ち、そのたもとに地震断層がくっきりと現れていた。これは今回の地震の震源となった布田川断層の北東部にあたり、阿蘇カルデラの中まで延長していたことが初めて分かった。
路面のセンターラインは断層によって1.2mずれ、そこから地震断層は延々と続く。断層直上の家屋はことごとく壊れ、ぺしゃんこに潰れている家も多い。救出活動がまだ続けられている。学生が多数亡くなった。胸がつぶれ涙があふれる。
自動車も横倒しになっている。東日本大震災で津波に流された車を見慣れたせいか、最初は何気なく見ていたが、急に疑問が湧く。なぜ倒れているのか? このようなものは阪神淡路大震災ですら見たことがない。同様の車は5台見つかり、すべて北西側へ倒れていた。北東-南西に延びる布田川断層が震源になれば、強い揺れは直交する方向(北西-南東)になる。それで横倒しになったと考えて矛盾はない。
断層は数列に分かれ併走し、その範囲内にある建物はことごとく倒れた。激しい揺れと地盤のズレの影響で、甚大な被害が生じた。阿蘇大橋を落橋させた大規模な斜面崩壊も、強震動が引き金になった可能性が高い。活断層の恐怖をまざまざと見せつけられた。
筆者は阪神淡路大震災以来、活断層の詳細な分布図を作り、どのような地震が起きるかを予測する手法の開発に取り組み、原発の安全審査の政策論にも関わってきた。被害軽減に活かせるようにしたいと心がけてきたが、果たしてその成果はどうだったか? 活断層を周知させることには貢献できたかもしれないが、一人でも犠牲者を減らせただろうか?
熊本を歩くと、被災者の温かさに驚く。ヘルメットをかぶって潰れた民家に近づくと、「ご苦労様、ありがとう」と声をかけてくれる。こちらに返す言葉がない。こうした言葉を私たちが被災者になったときに言えるだろうか? 被害に遭われた皆さんが真に安心できる日が早く来ることを祈らずにいられない。
(すずき やすひろ)

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