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オゾンホール ―南極から眺めた地球の大気環境―
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南極から眺めた地球の大気環境
オゾンホール
岩坂泰信 著

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裳華房 ISBN4-7853-8535-9

 南極オゾンホールの発見(1985年)、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年)、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(日本;1988年)、「オゾンの形成と分解に関する大気化学」によりCrutzen(独)、Molina(米)、Rowland(米)らがノーベル化学賞受賞(1995年)。
 現在では成層圏のオゾン層がフロンガス(正確にはハロカーボン類)の影響で破壊されていることは科学者でなくても周知のことであろう。本書初版は1990年に発行され、南極のオゾンホール拡大の観測、その原因の究明についての外国の研究者との競争など当時の最先端の研究がいかに進んでいったかがよくわかる。
 南極気象隊員が「オゾン濃度が低いなあ。機械の故障でなければいいが」とまさに拡大するオゾンホールを目撃していたことの記述は、野外観測を同じくするものとして、非常に共感を覚えたと同時にある種の恐怖を感じてしまった。電話一本でエンジニアが修理部品を携えて飛んできてくれることのない南極で、通常とは異なる観測値が検出されたとき、まず測器を疑うのは観測者として正常な反応であろう。その上で果たして完全に測器に異常なしと判断し、異常現象だと自信を持って断言できるかどうか、身につまされる思いがする。
 また南極観測を実施している各国の中で、毎年律儀に結果を公表していた日本がオゾンホール発見で後手を回ることになり、10年間まったく結果が出されずいわば“サボっていた”イギリスから問題提起がなされた事実は、研究にまじめさと努力だけではどうしようもない一面があるということを暗示している好例であろう。もちろん、イギリスが“サボりつつ”も観測は10年間続けていたということも忘れてはならないが。
 ただ、同じ研究で国際競争に負けることよりも、地球を相手にしている科学者として面白い現象に気づかずに見逃してしまうことの恐怖の方が強い気がする。やはり“目”は大事であると改めて感じた。

【評:地球環境科学専攻 阿部 理】

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