環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 水と人との関わりについて考える学問

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地球水循環研究センター
檜山 哲哉 教授
(水文学・地球環境学)
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図1 ナミビア北中部・季節湿地帯に住むオワンボ族の人家で出会った少年達。彼らはとても人なつっこい。
文学(すいもんがく)という学問をご存じですか?水文学は、陸上での水の循環(降水・地中への浸透・土壌水分移動・蒸発散・地下水流動、など)を様々な地域で観測し、モデル化する学問です。それは人類の生存基盤にとって欠くことのできない水について、人との関わりも考慮して論じる研究分野になります。理学的には気象学、雪氷学、凍土学、生態学、森林科学、作物学と密接に関わる一方、様々な地域の人々を主人公に考えますので、地理学、社会学、人類学、開発学、土木学とも関連します。
者は、このような色々な研究分野の人達と、ここ5年ほど、シベリアやナミビアで水環境の研究を進めてきました。温暖化は、ユーラシア大陸側の北極海の海氷面積減少と相まって、シベリアで降水量の増加をもたらしています。その結果、タイガやツンドラなどの陸域生態系が変化し、河川洪水の頻度が増加しています。これらの水環境変化が、どのように動物資源(トナカイや牛・馬)を利用する人々の生業に影響を与えているのか、今後の適応策はどうあるべきか、などを調査してきました。トナカイを狩猟・飼育する北方少数民族については、これまでのところ温暖化や降水量の増加による直接的な影響を確認することはできませんでしたが、レナ川などの大河川沿いに住み、牛馬飼育をしている人々については、近年の夏の水位上昇が中州での牧草を冠水させるため、飼料の確保を困難にしていることがわかってきました。そこで飼料の融通や調達方法の改善についての適応策を現地研究者と考案してきました。
ミビア北中部では、雨季になると低い土地が湿地になるため、湿地を利用した稲作の導入を作物学の研究者と検討しています。この地域は、気候変動によってある年は洪水に、ある年は干ばつになります。そのため、洪水時にも干ばつ時にも食料を確保できるような「イネ−ヒエ混作農法」を提案しようとしています。その際、こちらから一方的に混作農法を押しつけるのではなく、混作農法に対する農家の意識や食糧確保に対する考えを、社会学や開発学の研究者とともに調べています(図1)。
のように、水文学はもともと理学的な研究分野ですが、水と人に関わる全ての領域と連携できる重要な学問です。筆者は今後、名古屋大学で水文学を担うとともに、関連諸分野との連携を常に意識しながら研究していこうと考えています。
(ひやま てつや)
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