環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 二つの大震災

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都市環境学専攻 建築構造システム講座
勅使川原 正臣 教授
  (鉄筋コンクリート構造, 耐震工学)
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津波被害 (クリックすると拡大)
 
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阪神大震災 (クリックすると拡大)
 
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阪神大震災 (クリックすると拡大)
初に今回の震災で亡くなられた多くの方々のご冥福をお祈りするとともにご家族に哀悼の意を表します。被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧・復興を願っています。
の原稿を依頼されたのが5月の中旬、普段の状況であれば日本の一番良い季節を愛で、柄にもなく美しい花のことや野外活動のことを書いたかもしれません。しかし、時期的にまた、耐震の研究をしている身としては3月11日発生した東日本大震災のことに触れないわけには行かないと思います。
回の地震発生当時、私は東京都港区田町の建築会館(RC造地上7階建)の6階で会議中でした。2時45分頃最初の大きな揺れが、その数分後大きな揺れが2回来ました。窓から南側を見ると高層の建物が揺れているのが、建設途中のタワークレーンが振り落とされそうなくらい揺れているのが見えました。これが長周期地震動かと実感しました。会議室には20人弱いましたが皆建築構造・耐震構造の専門家でパニックになることもなく冷静に行動していました。それからTVで地震関連のニュース、まるで映画のシーンのような津波の襲来を見ました。名取川をさかのぼり堤防を越えて住宅を飲み込む様は現実のものとは思えませんでした。九段会館の天井が落下し死者が出たこと、都内でも建物が倒壊したことが報じられていました。気象庁は、最初M8.2、USGSではM8.8(後にM9.0に訂正)と途方もなく大きな地震であることが報じられていましたが、なかなか実感がわいてきません。建築会館の周りは普段と変わらない日常が流れていたためかと思います。
京は交通機関がマヒし、移動は困難でその夜は建築会館で泊まる羽目になってしまいました。このころやっと大きな地震だとの実感がわいてきました。しかし、会議で一緒だった方々がいたこと、情報がTVで適確に得られたこと、建築会館の周りは通常通り飲食店が営業していたこと、建築会館なので宿泊を頼みやすかったことなどによりあまり不自由なくその日は過ごせたと感謝しております。原子力発電所も地震直後は安全に停止したとの情報があり、一安心でしたがその後事態はどんどん悪い方向に行っているようで心配です。
は、1995年の阪神淡路大震災のときは外国人の研修生(建築研究所国際地震力工学部)と一緒に大阪にいました。この時の揺れはドスンというような衝撃波だったように記憶しています。すぐに地震調査だと、研修生を連れて三宮方面に向かいましたが火災が発生していること、犠牲者がすぐに1000人を超え、研修生をつれてうろうろしている場合ではないと判断し、研修生をつくばに帰す段取りをし、翌日に近畿大学の窪田先生と一緒に現地に入りました。芦屋から三宮まで見渡すかぎりペッシャンコという感じでした。これより数倍広い震災地域となった今回の震災でも、確かに津波地域は見渡す限り何もないという印象ですが、そうでない地域では被害建物は探さないとなかなか見つからないという印象です。
波の被害と原発の事故に隠れてしまった建物の振動による被害はどうだったんでしょうか。断片的な情報が各方面から届きます。また、私自身もこの地震に誘発された形の3月15日に発生した静岡県東部地震(富士宮市で震度6強)の初動調査、5月連休前半には仙台市の集合住宅の被害調査に行ってきました。これまで繰り返し指摘された被害が今回も見られましたが、地震力の規模の割には数としてはそんなに多くないという気がしています。集合住宅では柱梁などの構造体には曲げひび割れが若干見られるものの大きな被害は少ないようですが、玄関ドア脇に代表される非構造壁の被害、大きなななめひび割れ、コンクリートの脱落が多く見られました。耐震構造を研究しているものとしては非構造壁の被害はしかたがないと考えているのですが建物の所有者にとっては大問題です。1995年の阪神淡路大震災後に提唱、法制化された建物構造の性能規定化が浸透しきっていないことが残念です。
神淡路大震災では、ピロティ構造が問題となりました。今回の震災では、津波地域において大半の木造建物が津波で流されたにもかかわらず、RC建物は残っていました。でも転倒しているRC建物も数棟あるようです。津波被害が予想される地域ではRC建物を非難場所にしようとしていますが、転倒したRC建物の特徴を調査して非難所としたRC建物が津浪で転倒しないようにする方策を検討しておく必要があるでしょう。
(てしがわら まさおみ)
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