環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 里山からの環境学

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都市環境学専攻 環境機能物質学講座
夏原 由博 教授
(生態学)
然とのつきあい方が考え直されています。
類が誕生してから長い間、その日暮らしの狩猟採取生活でした。農業が始まったのはわずか数千年前ですが、自然を大きく作りかえる一方で、その土地の自然に順応した生活を続けていました。雨季のあるモンスーンアジアではイネを栽培し、雨の少ない中央アジアでは、放牧によって暮らしを立てていました。水田は稲を育てるだけの場所ではなく、魚を捕ったり、収穫後に家畜を放牧するなど多面的な利用がなされていました。集落近くの山は、水田の肥料とする刈敷や燃料とする柴の供給源でした。山から離れた集落でも屋敷のまわりに木や竹を植えることによって資源を確保していました。
年まで、日本の里山里海の生態系サービスを評価するプロジェクトに加わっていました。国連が呼びかけて世界の生態系サービスを評価したミレニアム生態系評価の日本版です。自然資源の利用が増加しすぎて生態系をこわしてしまっている世界の傾向とは違って、身近な自然資源を利用せずに、海外の自然資源や化石燃料に依存している日本の特徴が明らかになりました。
山の再生についての議論で、昔に戻すのではなく、イノベーション(新しい市場開拓や技術革新)が大切だろうとされます。そのとき大切なことは、人間の力を過信しないことと環境にとりかえしのない悪影響が生じない範囲をみきわめることです。例えば、山の木を切っても再生は可能ですが、尾根を削り谷を埋めては元に戻すことはできません。人間のやることに絶対ということはありません。
続的というと、変化しないことととられがちです。しかし、多くの生態現象で、小さな集団が消滅と再生を繰り返し、全体としては持続していることが知られています。全体が一続きであるよりも、ある程度離れていた方が個性が生まれ、全体としての発展を助けるとも考えられています。地域の個性を活かした取り組を進めるために、学術面からのお手伝いが環境学の使命のひとつでしょう。
(なつはら よしひろ)
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