環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 地震学の本質的な課題:絶対応力場の推定

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地震火山・防災研究センター
寺川 寿子 助教
(地震学)
のたびの東北地方太平洋沖地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに,被災された皆様とそのご家族の方々には心よりお見舞い申し上げます.地震学の研究に携わる者として,無念でなりません.地震国日本に生まれた我々は,直接的にも間接的にも,大地震の恐ろしさを経験する機会が多くあります.私の場合は,母の実家が静岡市(旧清水市)にあり,母の家族は1944年の東南海地震(M7.9)の被災者です.子供の頃に聞いた祖母の思い出話には,戦争とこの地震の話が必ず登場し,私は子どもながらにその恐ろしさを受け止めた記憶があります.今にして思えば,当時は大規模地震対策特別措置法(1978年)が制定され,静岡県は「東海地震」の地震防災対策特別地域に指定された頃でした.人々の生活にはいいようのない緊張感が漂っていたのではなかったかと想像します.
震は,地殻やマントル内に蓄えられた応力を一気に解放する断層運動です.一見複雑怪奇に思える地震現象ですが,断層運動のタイプは地下に働く応力場のパターンによって規則的に支配されています.日本では1995年の兵庫県南部地震以降,地震やGPSの観測網の充実をはじめとした観測技術の向上が目覚ましく,質の高い地震のデータが得られるようになりました.現在では,断層運動のタイプを表す地震のメカニズム解というデータを統計的に処理することにより,地殻内の応力場のパターンを推定することが可能です.しかし,意外にも,応力場の絶対値に関しては統一的な見解が得られていません.これは,地震を起こす断層の破壊レベル,つまり剪断強度がわかっていないということです.地殻の絶対応力レベルがわかれば,地震発生予測モデルの構築や誘発地震のメカニズムの解明に新しい展開が期待でき,断層の強度を推定することは地震学の本質的な課題です.私は,数値シミュレーションやデータ解析を組み合わせることで,この問題に取り組んでいます.我々は今回の大震災から多くを学び,新たな一歩を踏み出さなければなりません.
(てらかわ としこ)
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