環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 「大」名古屋で地理学する私

顔写真
社会環境学専攻 地理学講座
阿部亮吾 助教
(人文地理学)
写真
レッチワースの駅前景観
(2010年8月15日 阿部撮影)
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03年に建設の始まった英国のレッチワースは、日本の郊外ニュータウン思想に強い影響を与えた、知る人ぞ知る世界最初の「田園都市」です。今年の8月に弟の留学先である英国を旅行した折、講義でもよく取り上げる、この小さな町を訪れる絶好のチャンスに恵まれました。
ンドンのキングスクロス駅から列車に揺られること40分。レッチワースの駅を降りると、田園都市の提唱者であるエベネザー・ハワードが「都市と農村の結婚」を夢見て創造した町並みが目に飛び込んできます。5階建ての集合住宅が幾重にも立ち並ぶ日本の郊外ニュータウンとは似ても似つかない景観は、100年経った今でも小奇麗に保たれており、それが世界中の都市愛好家に愛される所以なのでしょう。もちろん、白人中流階級の郊外という、極度に人種/階級化された居住空間であることは否めませんが。
方、名古屋大学がキャンパスを置くここ名古屋市は、東京・大阪に次ぐ三大都市圏の中心地でありながら、どこか垢抜けない町として「偉大なる田舎」の称号をほしいままにしてきました。たとえ2000年以降の名古屋バブルで一人勝ちしたと言われようとも、生物多様性条約締約国会議(COP10)が名古屋を舞台に開催されようとも、河村市長のニュースが毎日のようにテレビを賑わせても、大都市のわりには住みやすい住環境、名駅・栄・大須のトライアングルに囲まれた狭き盛り場空間、そして夜の経済が早く終わる町。ここは、相も変わらず巨大な田舎のままなのです。
かし、それで良いのかもしれません。ハワードの理想とした、都市でも農村でもない居住空間がこの世に真にあるとすれば、それは偉大なる田舎の名古屋にこそ相応しい。そう思うのは、私が名古屋に強い場所愛(トポフィリア)を抱いているせいでしょうか。名古屋という町は、噛めば噛むほど味の出る酢昆布のような町です。私はここで日々、エスニック問題と都市空間と社会環境の関係性を研究しつつ、次に名古屋がどんな表情で私を魅せてくれるのか、ワクワクしながら過ごしているのです。
(あべ りょうご)
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