環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 南極の吹雪を測る

顔写真
地球環境科学専攻 気候科学講座
教授 西村 浩一
球温暖化に伴って、今後、南極氷床はどのくらい縮小するのでしょう?
の質問に対しては、「気温の上昇にともなって融雪量は大きくなるが、降雪量も増加するため南極氷床の変化は小さい」が、現在のところ模範回答になっているようです。しかし実際には「今、南極氷床は減少しているのか、それとも増大しているのか?」さえも、正確にはわかっておりません。この理由は、南極という広大で厳しい気象環境のもとでは観測が極めて難しいため、未だデータが質、量共に不十分である点にあります。南極大陸における氷の量の増減(質量収支)の研究は、日本では主に竹竿を雪面に立てた「雪尺」を使って行われてきました。国際的には衛星やレーザープロファイラ等の使用、表面の氷コアを用いたトリチウム分析、地中レーダを用いた内部層解析などが検討・実施されていますが、対象はいずれもごく限られた範囲にとどまっています。
方、南極ではほぼ一年を通してカタバ風が大陸斜面を駆け下っており、この風によって舞い上がった吹雪の作用で数100kmにわたる規模で積雪の再配分がおこっています。南極氷床の質量収支を議論するうえで、この積雪再配分量の見積もりは重要な鍵となるのですが、これまでは定性的な推定に留まっていました。
41次南極地域観測隊(1999年から2001年)に参加した際に、私は沿岸から250kmの位置にある「みずほ基地」の30mタワーを利用して吹雪観測を行いました。その際、メイドインジャパンの吹雪計が大活躍したのですが、現在はこれをさらに発展させた「無電源で作動する小型の吹雪計測システム」の開発に取り組んでいます。この装置を南極大陸の沿岸から内陸に向けて多数設置して、積雪再配分量を高い空間および時間分解能で測ってやろうというわけです。これまで2年間は、風洞実験で新システムの性能評価を行ってきましたが、今年の冬からは山形と北海道において野外での作動試験を開始する予定です。
和基地から1000km内陸にある「ドームふじ基地」では、地球規模の気候と環境変動の研究を目的に、過去70万年以上に遡る氷コアが採取されました。解析結果の解釈は、多くの場合、降雪粒子がその場に堆積したという前提で行われますが、実際には遠い場所から風で運ばれてきた可能性もあります。本研究により雪粒子の辿ってきた道のりを推定することができれば、地球規模の気候と環境変動を研究する上でも重要な貢献ができるのではと考えております。
(にしむら こういち)
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南極みずほ基地の30mタワーと自動気象観測装置
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低温風洞での新型吹雪計測システムの作動試験
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