環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

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社会環境学専攻社会環境規範論講座
増沢 陽子
(環境法・環境政策)
「世
界で最も環境政策に積極的な国や地域はどこですか。」こんな質問を受けたら皆さんはなんと答えますか?もちろん、これは答えのない問です。何をもって環境政策というのか、積極的とは誰のどのような状況をいうのか、評価も比較も困難だからです。とはいえ、現在、欧州連合(EU)が環境政策に最も積極的な国・地域の一つであるといってもそれほど大きな反対はないと思います。特に気候変動政策については、温室効果ガスの排出量取引制度をいち早く導入したほか、野心的な目標を掲げ、再生利用エネルギーの利用拡大など様々な対策を打ち出しています。
E
Uが最近導入した環境法制の一つに、REACHと呼ばれる制度があります。REACHは、一定量以上生産輸入される化学物質(3万物質ほどといわれています。)について、事業者に、情報を収集提出しあるいはリスクを評価し適正に管理することを義務付けました。新しく開発してこれから市場に出そうとする化学物質を評価して管理する制度は多くの国が持っていますが、REACHが注目されているのは、すでに私たちが使用している物質も「総点検」する、しかも企業の責任でこれを行うことにしたからです。すでにいろいろな場所や用途で使われている物質を評価したり管理したりするには、化学物質そのものを製造する企業だけではできません。化学物質を使って製品を作っているメーカーなども協力する必要があります。REACHはこうした連携をうながす法的・事実上の仕組みを持っており、現在、世界中を巻き込んで、タテヨコの企業同士の新しい「環境連携」が生まれつつあります。REACHはEUの制度ですが、EU市場で化学物質を扱う事業に関係している限り、どの国の企業であっても無縁ではいられません。
R
EACHが最終的に成功するかどうかは今の時点ではわかりませんが、こうした大掛かりな制度が構想から10年近い議論を経て動き始めたことは重要です。環境政策の議論が複雑さを増しているだけに、理念が現実を牽引する力に改めて留意する必要があると思います。
(ますざわ ようこ)
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