環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

Home > 環境学と私

  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 動物の視点から環境を観る

顔写真
都市環境学専攻 物質環境構造学講座
准教授 依田憲
リフォルニアのアニョ・ヌエヴォでは、キタゾウアザラシが繁殖のために毎年上陸してきます。雄の体重は2トンを超えることもある、巨大な生物です。私たち研究者は、この中の年齢の分かるアザラシ(一部の個体には子どものときにプラスチックのタグが付けられる)を捕まえるため、麻酔薬を片手に群れの中に侵入します。狙ったキタゾウアザラシに気付かれないように身を潜め、そろり、そろりとアザラシに忍び寄る研究者。いつの間にか何百頭ものアザラシたちにぐるりと囲まれていることもあります。観察しているのは、人間か、それともアザラシか? 人間主体で見ていた世界が錯覚であったことに気付く瞬間です。
んな感傷をいつも抱いているわけではなく、我々は冷静に麻酔薬を打ってアザラシを不動化し、淡々と血液を採取し、超音波を使って脂肪量を計測します。次に、工学機器をアザラシに接着します。これらの機器は、アザラシの動きや位置、生理状態などの情報をセンサによって記録し、また、アザラシが見る環境をビデオカメラで撮影します。そして、再び回遊してアニョ・ヌエヴォに戻ってきたアザラシから機器を回収し、内部のメモリに記録された回遊経路や行動を計算機上で再現するのが私の研究手法です。アザラシのような哺乳類だけでなく、鳥類にもセンサを装着し、動物の驚異的な移動能力や採食戦略の進化について研究しています。
題がどの時間・空間スケールで起こっているのかを、多角的な視点から考える学問が環境学です。エネルギー問題やゴミ問題では必ずしも動物のことを考える必要はありませんし、私たちが人間である以上、環境を人間中心的な視点で見てしまうのはある程度仕方の無いことかもしれません。しかし、同じ地球の住人である動物の生態を知り、時には動物の視点で世界を見ることは、我々の環境観をきっと豊かにしてくれることでしょう。
(よだ けん)
写真
機器を装着されたキタゾウアザラシの雄
写真
南極でアデリーペンギンの生態調査を行う筆者
移動軌跡
動物装着GPSで記録されたオオミズナギドリの移動軌跡(早送り)
 本教員のページ