環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 大気汚染から地球温暖化まで

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地球環境科学専攻気候科学講座
准教授 須藤健悟
(大気化学、気候学)

気予報は当たらないと未だによく言われます。このような予報は何故あるのでしょうか? やはり大気の状態は私たちの生活に密接に関係する重要な「環境」でありますし、なにより知りたいという本能的な欲求、或いは未来に対する警戒心があるからではないでしょうか。私は大気汚染や気候変動などのグローバルな大気環境変動のメカニズムについて、主に数値シミュレーションによる研究を行っています。現在の地球科学的知見を最大限(?)結集して、大気中の現象をコンピュータ上で再現・予測しようとする点では天気予報に似ているのかもしれません。
る照る坊主は、ある場所の天気を操作しようというおまじないですが、実際に操作する術は現状ではほぼありません。地球全体ということであればなお更のことですし、容易に操作できたのでは逆に困ります。したがって、大気汚染物質の長距離輸送や温暖化などのグローバルな現象のメカニズム解明に関しては、本物の地球で実験することができません。このような理由で、グローバルな環境問題の研究・予測は数値モデルによる仮想的な実験に少なからず依存しています。
気を舞台とするグローバルな環境問題は、気候変動(地球温暖化)、大気汚染、そして成層圏オゾン層変動の3つに大別することができます。私の研究は、この3つ全てに跨ります。これは私が欲張りだからではなく(多分)、寧ろ必然的なことです。例えば大気汚染の中にはエアロゾル(浮遊粒子)というものがありますが、これは太陽光を反射/吸収したり、雲・降水を変化させたりして気候変動に関与している可能性があります。また大気中のオゾンは、成層圏だけでなく、地表付近でも光化学スモッグとして重要で、また強力な温室効果気体でもあります。さらに、気候変動は大気汚染や成層圏オゾンを変化させるかも知れません。このように相互リンクした3つの問題の過去・現在・将来について数値モデルや観測データを用いて考察していますが、なかなか複雑で、眩暈がしそうな毎日です。
経組織網のように複雑な(はずの)地球を、人間が作った数値モデルが表現しきれるのか?ということについては、甚だ議論の余地があります。一方、パイロットが訓練するフライトシミュレータはかなりリアルだと聞いたことがあります。私は地球シミュレータというスーパーコンピュータを用いた地球環境システムモデリングにも参加していますが、フライトシミュレータ並みのリアリティを持った真の地球シミュレータとしていつか役立つ日が来ることを眩暈に耐えながら願っています。
(すどう・けんご)

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全球化学気候モデルCHASERにより計算された各種汚染物質の流れ。光化学オキシダント(黄−オゾン、紫−PAN)と一酸化炭素(白)。汚染物質が太平洋やユーラシア大陸を横断する様子が分かります。

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地球シミュレータ(海洋研究開発機構・地球シミュレータセンター)。2002年運用開始時から世界第1位の計算性能を誇ったスーパーコンピュータ。2007年11月時点では世界ランク30位ですが、2008年度に更新予定です。

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