環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 ハイパー・ルーラリティ

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社会環境学専攻地理学講座
准教授 高橋 誠
(農村地域論)

コットランドのグラスゴーの南、イースト・キルブライドという町 に、農村生活博物館はあります。ここでは、とても奇妙な光景を目にすることができます。現役を退いた耕耘機が置かれ、背後の大きなガラス窓には、博物館によって所有される圃場が映し出されています。ここでは、すべてのものが本物で、また偽物です。農具もトラクターも牛舎も、そして農作物や農作業でさえ、現代のフードシステムから切り離され、それ自体がアトラクションとなっています。似非田舎(fake countryside)と指摘する人もいますが、茅葺きと棚田と里山がセットになった日本の農村も似たような状況にあるといえます。
のような社会でも、自然環境との関わりなしに存続することは不可能です。それが集団的に行われるために、その関わり方はそれぞれの社会の機能や構造のなかに埋め込まれています。だから社会科学者は、土地や家族の制度、市場や国家やコミュニティの仕組みに社会と自然との関係性を見出そうとしますが、ときに、いくつかの重大な方法論的誤謬を犯してしまいます。プリミティブな社会ならば比較的わかりやすいのですが、現代社会では、いかにもローカルな自然環境と調和するように見える農村社会でさえ、環境に対するあらゆる社会的行為が間接化されているために少し厄介です。
たちの環境実践は必ずローカルな場所で行われます。ところが、私たちを取り巻く社会関係は、社会的にも空間的にも広範囲に及びます。思想は、ローカルな地域から生まれたものであっても、往々してグローバル性を装います。科学的な知識も同じです。いまにして思うととても些細な研究で学位を取ったあと、そこに生じる齟齬が現在の農村の姿を作り出すプロセスについて、私はずっと考えていました。そして、食の問題と地域環境史をめぐる探求に乗り出そうと思っていたときに、津波が起こりました。まるで大きな波に呑み込まれるようにスマトラへ行き、災害復興の問題に取り組むようになりましたが、双方の問題は実はそれほど懸け離れていないと感じています。
(たかはし まこと)

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National Museum of Rural Life, East Kilbride

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